遅すぎた真実のエピローグ
3[もう一人の証言者](1/8)
「イヤ〜、裕子〜!」 

調度、林が三人を目で追っていた時だった。 一人の女性の叫び声が聞こえて来た。

「なんだ? 今の悲鳴は!」 

林は、辺りを見渡しながら大声で怒鳴った。
数十メートル先で、制服を着た警察官数名が、一人の女性を必死に取り押さえようとしている光景が、林の目の中に入って来た。

「一体、どうしたと言うんだ?」 

林は、さっきよりも大きな声を上げ、その警察官達の方へと急いで走りだした。

「裕子〜! 裕子〜!」

そこは、あの惨殺された女性の横たわる殺人現場のすぐ目の前だった。 その先は既に、警察により立入禁止のテープが張りめぐらされ、何十人もの警察官が現場を目隠しする格好で、その周りに立っていた。
これから更に、ブルーシートで現場の周辺を目隠しをして、本格的な現場検証が行われようとしていた矢先だった。

その女性は大粒の涙を流し、大声で泣きながら、裕子、裕子と何度も叫んでいた。
そこへ慌てて駆け付けた林だったが、すぐにその事情に察しがついた。

この被害者の女性の知人に違いないだろうと‥‥‥。

「この被害者の女性を、ご存知なんですね? お嬢さん。」 

林が、お嬢さんと呼んだのにも訳がある。 その女性は整った綺麗な顔立ちをしていて、スラッと長い足に艶のある長い黒髪、おまけに、着ている服まで上品なのだ。
一瞬、見とれてしまいがちな品のある女性だった。

「‥‥はい。‥‥‥それに私‥‥‥ 犯人が誰なのかも知っているんです。」 

彼女は、真剣な顔をして林をじっと見つめた。

「お嬢さん。 今、何とおっしゃいました?」 

林の目が、彼女を鋭く睨みつける。

「‥‥‥殺された女性の事も‥‥、 その女性を殺した人の事も、私、全部知ってるんです。」 

彼女は涙目で声を震わせながら、林にそう訴えた。

「まずは落ち着いて下さい、お嬢さん。 落ち着いて!」 

林は彼女の肩を抱き、そこから20〜30メートル程離れた所へと彼女を連れて移動した。

「私は、林と申します。 ご心配なく。私は、警察の者です。 いいですか、お嬢さん。 まずは落ち着いて下さい。 お願いします。」 

林は彼女の肩に手を乗せて、真剣な眼差しで彼女を見つめた。




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