「・・・ふぅ」
closeのプレートを表にし、一息着く。
と、ふいに背後から呼ばれる。
「ちぃ ちぃ♪」
そのいたずらに歌うような声に振り返ると、カウンターに肘をついてニヤッと笑う嵐が手招きをしていた。
何かいたずらを始める前の子供のような表情が、たまらなく... ...
ーか、かわいいい... ...!!
心臓が射ぬかれる感覚。
きゅんで死ねるとはこのことか...と思うほどに、知桜にはいちいち衝撃が強い。
嵐に呼ばれるがままに、疑問符を浮かべながら嵐の元へ行く。
仕事終わりでタイをはずしてユニフォームを着崩した感じも... ...
いい。
などと不純な目で見てしまう自分を心の中で叱咤した。
「ね。これどう?」
そう言って冷蔵庫の中かから出してきたバットを知桜に見せる。
中には細かく刻まれたフルーツが並べられ、艶っと輝いていた。
「これ何?」
バットの中を覗きこみながら知桜が問う。嵐がバットにかけられたラップを外すと、甘〜い香りがふわっと立ちのぼった。
「マセドワーヌ!そのまま食べてもおいしいけど、これをケーキやジュレに添えんの♪」
「キレー... おいしそ〜!」
キラキラと瞳を輝かせる知桜に、嵐がピンに少量を刺して渡す。
「い、いいの!?」
「いーよ♪その代わり、ちゃんと感想聞かせてね?」
嵐に勧められるままぱくっと口に入れると、甘〜いシロップの中にはお酒もしっかりと効いているのか、少し大人な味が口一杯に広がる。
「どう?甘すぎない?むしろあっさりしすぎてない?
...キルシュ酒よりコアントローの方が香りがいいかなぁ...?」
後半は独り言のようにつぶやき、知桜の感想を待つ。
じぃっと真剣な眼差しで見つめられ、嵐の瞳に知桜が写った。
嵐の瞳に写る自分と視線が合い、どきっとする。
「...甘い。なんか... ...幸せ♪」
にこっと控えめな笑顔で言う知桜を見て、嵐は満足そうに微笑んだ