未来へ
ある日の暮れ方のことである(1/6)
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結局あのあと、なんとも言えない気まずい空気の中で食事を終えて、風呂に入ったあと、これまでと同様にほとんど会話もないままそれぞれ就寝し、朝を迎えた。
「……」
そう、朝を。
室内が明るい。電気はついていない。と、いうことは。この明るさは、カーテンの隙間から差し込む太陽の光だ。
「……」
もう12月で、普段は日の出前に起きているのでこんなに部屋の中が明るいはずがないのに。
慌てて時刻を確認すると、8時半だった。
寝坊した、らしい。
ベッドから降りて、急いで部屋を出る。リビングに駆け込むが、当然ながら樹さんの姿はなく。
彼は既に出勤したあとだった。
「……あー…もう……」
やってしまった。
どうしてこう私はタイミングが悪いのだろう。
樹さんは優しいので、こんな状態のときでなければ、それこそ数ヶ月前ならばそこまで大きな問題ではなかった。
けれど、いまは。
テーブルに手をついて、思わず溜息を吐いてしまう。と、テーブルの上に1枚の紙が置かれていることに気づいた。
『仕事に行ってくる
疲れているようだから今日はよく休め
今日は早めに帰る
話したいことがある
色々と悪かった』
整った字が並んでいる。
「…………」
話したいこと。
それは、一体なに。
色々と悪かった。
その謝罪は、どういう意味を持つの。
わからない。
否。
わかりたく、ない。
今日、いま、このタイミングで。こんなことを言ってくるなんて、そんなの、言われることなんて決まっている。話の内容なんか、決まっている。
きっと、今日が最後の日になる。
天嶺棕櫚で居られる、最後の日。
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