未来へ
廻れば大門の見返り柳いと長けれど(1/12)

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今日は3回目の家庭教師の日である。

家のことは全て済ませて、午後4時を回った頃に恭丞くんの、もとい恭丞くんが暮らす鳴滝くんの家に来た。

初回、そして2回目は鳴滝くんが家にいたが、今日は居ない。大学に行っている。時間割上はこの時間に授業は入っていないらしいが、教授の都合で休講になった授業の振り替えが入った、みたいなことを言っていた。良くわからないが、大学というのはそういうこともあるらしい。

チャイムを鳴らすと恭丞くんが鍵を開けて入れてくれた。

他愛のない会話をして、割と直ぐに勉強に入る。

恭丞くんはとてもよく勉強してくれる。自分が小学生だった時のことを思い返しても、こんなふうに1時間しっかりと勉強したことなんてほとんどなかったと思う。



「シュロお姉さんはさ、なんで結婚したの?」



勉強のキリがつき、時間的にも調度良いのでそろそろ帰ろうかと思っていた時だ。

ふと、そんなことを恭丞くんに問われた。



「……どうしたの、突然」

「だって、シュロお姉さんが結婚してなかったら、おれと結婚できたのに」



……それは無理があるだろう。

年齢差的に、それをしたら私は犯罪者になってしまう。

まあ、恭丞くんはまだ小学2年生だし、子供のいうことなんて真に受ける必要も無いか。



「一年生のときの先生は、結婚したら休みになってべつの先生が来た」



結婚休暇というやつだろうか。いや、公立小学校の教員で、しかも担任を持っている人間がそれをするのはなかなか難しい。となると、産休だろうか。



「シュロお姉さんはおれの先生急にやめたりしない?」

「その予定は今のところないよ」



そう返せば、恭丞くんはニコリと笑った。



「なんだ、よかった。でもやっぱりシュロお姉さんが結婚してなかったらおれがおっきくなってから絶対結婚したのに」

「そっかぁ」

「信じてないでしょ」



唇をとがらせる恭丞くん。懐かれているのは素直に嬉しいが、うたく受け流すこともできない自分のコミュニケーション能力が憎い。



「おれが8歳で、お姉さんがもっと年上だからだめなの?」

「そうだねえ」

「でもあと10年したら18歳だよおれ」

「……。そのときは私も10年分歳をとってるよ」



そう返してみれば、恭丞くんはハッとしたような顔をする。

なんだ、可愛いな小学二年生。



「……じゃあ兄ちゃんは?」

「うん?」

「シュロお姉さんが兄ちゃんと結婚してたら、おれともずっといっしょに居られるのに」





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