未来へ
夢よりもはかなき世の中を(1/12)

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それから2週間が経った。

例のレシートは、どうしたら良いかわからず、しかし見つけてしまった手前捨てるわけにもいかず、結局私の部屋の引き出しの中に仕舞われている。

なにかに使うことはきっと一生ないのだろうが、それでも取っておいているあたり、私は非常に性格が悪くてどこまでもクズな女なのだなと思う。


この生活を始めてから半年ほど経ち、樹さんの生活習慣や生活リズムも大体判るようになった。最近では、樹さんの整った顔に渋面を作らせるようなこともほとんどなくなって、静かに、穏やかに、なんの問題もなく、ふたりでの生活は続いている。


樹さんが起きる前に起きて、弁当をつくり、静かに朝食を食べ、鞄を持って玄関で見送る。それから朝食で使った食器を洗って、洗濯機を回して、その間に掃除をする。洗濯機に呼ばれたら、洗濯物を干して、それからまた残りの掃除。

そして昼食をとり、買い物をして、晩御飯をつくりはじめる。樹さんは、帰宅時刻を連絡してくれるのでそれに合わせてお風呂を沸かす。ご飯とお風呂はどちらにしますかと帰宅した彼に問えば、最近は風呂を選択することが多いので、樹さんが入浴している間に料理を温めて皿によそい、テーブルに運ぶ。

夕食をとり、洗い物をして、私も風呂に入って、就寝。夕食後、樹さんと顔を合わせることはあったりなかったり。

そんな、当たり障りのない日常を送っている。


今までと変わらない。
何も変わらない。


ときどき、何か言いたげな顔で私を見てくるけれど、結局何も言わずに目線を逸らす。

ごく稀に、私が樹さんの方を向いたタイミングで目が合うこともあるが、彼は特に何も言わず、首を左右に振るだけ。


世でいうところの仮面夫婦とは、こういう関係なのではないかと。そんなことを思ったりもするが、樹さんが何も言ってこないのに私が何かを言って地雷を踏み抜くのは避けたい。

これまでだってこんな感じだっただろうと。

別に何も変わらない。
大丈夫だと、そう言い聞かせて。


今日も今日とて、玄関口で樹さんを見送る。



「帰りが遅くなる」

「わかりました。お気をつけて」



あまり感情のうかがえない樹さんの整った顔を見つめ、笑顔で返す。


かわらない毎日。
前進せず、成長もしない日々。



そんな中で、一つだけ変わったことといえば。


樹さんは、残業することが多くなった。






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