未来へ
秋のけはひ入り立つままに(1/8)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



**


墓参りを終えて、帰宅する。

今日は霊園で神嶺妃麗さんと出会った。先月は会わなかったのだが、多分彼女のお兄さんと私の両親の月命日が近いのだろう。


少し話をする時間があったので、この間のお礼と、謝罪と、それから近況を少しだけ話した。





「きみ、既婚者だったのか」


そして、私の話をききおえた神嶺さんが言ったのは、その言葉だった。



「……早すぎますかね、やっぱり」

「まあ、昨今初婚年齢が30前後ってことを考えれば、早いか遅いかでいえばそりゃあ早いだろう。けど、別に悪いとは思っていない。少し意外だっただけ」

「意外……?」

「年齢もそうだけど、指輪をしていないから」

「……」



まあ既婚者が全員普段からつけているというわけでもないけど、と神嶺さんはつけ加えた。

けれど、私は何も返せなかった。

指輪。

たぶん、神嶺さんが言っていたのは結婚指輪のことだ。

結婚する時に、左手の薬指につけるやつ。
結婚式でお互いの指にはめるやつ。




それを、私は持っていない。

もちろん失くしたわけではない。

ならなぜ持っていないのか。

理由は簡単だ。
そもそも貰っていないのだ。


結婚式で指輪交換は確実にあるものだと思っている人も居るかもしれないが、そんなことはない。

神前式や仏前式では、挙式進行に組み込まれていない場合もあるのだ。私の場合は神前式で、組み込まれていなかったから指輪交換はなかった。

ちなみに、挙式は和装だったが披露宴は洋装だった。

樹さんや彼のご両親から希望を聞かれたが、特に無かったのでその旨を伝えたところ、式は和、披露宴は洋となった。


「……」


自宅のソファーに座って、左手の薬指を見つめる。

もちろん、何もついていない。


神嶺さんに言われるまで気づかなかった私も私だが、結婚したら多くの夫婦が指にはめている結婚指輪を、私はしていない。貰っていない。

結婚するときまったときも、婚姻届を提出しにいくときも、結婚式について話しているときも、いずれの場合も1度も話題に出なかった。


ちょっと調べて見たところ、結婚指輪というやつは必ずしも購入するものではないらしい。まあ、9割ほどの夫婦が購入しているらしいが。

加えて、旦那側が全額負担するのが4割程度だそう。
つまり、6割は女性側もお金を出すということだ。

貯金ゼロ、無職の私には無謀である。

購入するしないの話が出なかったのは、むしろ良かったのかもしれない。

全額負担してもらうのは、なんというか心苦しいが、私が買うのは絶対に無理なので、金銭面から考えたら良かったと言って良い。


気分的には、そうとは言えないけれど。






51
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前[*][#]次

->しおり->
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

/159 P
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
[編集]
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
←もどる