バニラに溺れる
「やっぱり来てくれた」(1/14)
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「やっぱり来てくれた」
白々しいくらいの笑みを浮かべて私を見る龍くんの姿に、思わず足が止まった。
―――夏休み初日。
7月18日、午前10時。
私は、東風駅西口に来ていた。
理由は簡単。呼ばれたから。龍くんに電話で、18日の10時に東風駅西口だと。その電話は高元くんに取り上げられてしまい、その後その件について話すこともなかったからその話はそこまでだったけれど。
それでも、私にとって龍くんの言葉は絶対で。だから、来ないなんて選択肢はあるわけがなくて。そしてそれは、龍くんにもわかっていることだ。
「……おはよう」
「おはよ。なんかつかれた顔してんな。どうした?」
「…何でもないよ。大丈夫。ところで、何で私、呼ばれたの?」
ああ、それな。なんて。龍くんはけらけらと笑って、私の腕を引いて歩き出す。
「どこ行くの?」
「イイトコ」
「…どこ?」
「イイトコっつってんだろ。心夏は黙ってついてくれば良いんだよ」
昔と、同じだ。少し強引で、だけどさほど乱暴な口調ではない。でも、なぜか逆らえない。
いや、もしかしたら、それは逆で。私が逆らえないのを知っているから、強い言い方をしないのかもしれない。
でも。
「……どこに、向かってるの?」
まさか、更に追及されるとは思わなかったのだろう。私が再度そう訊くと、龍くんは少し驚いたような顔をして立ち止まった。
そして。
「……心夏ってさ、」
龍くんが振り向く。
一瞬、周りの喧騒が全てなくなったような気がした。
「そんな、聞き分け悪い子だったっけ?」
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