バニラに溺れる
「明日の昼には着きますよ」(1/13)

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「明日の昼には着きますよ」


事務室掃除を終えて教室に戻ろうとしていたとき、ふと用務員さんの声が聞こえた。


「宛先は…中野龍也さん、で大丈夫ですね?」

「はい」


思わず、足を止めて。声がした方に目を向けると。

中年の事務の女性がにこにこと上機嫌に話しているのが目に入る。話し相手は葉瑠ちゃんだ。


「あ…、葉瑠ちゃ…」

「あぁ、会計さん。どうしたの?」

「…龍くんに、なにか送るの?」

「ん、USBメモリをね」


どっと、嫌な汗が背筋を伝う。止めないと、葉瑠ちゃんを止めないと。でも、何て言えば良い? 私が口を出すのはどうしたって不自然だ。

その間にも葉瑠ちゃんはとんとんと話を進めて、USBメモリの入った小さな箱は郵送するものがまとめて置かれている段ボールの一番上に置かれた。


「あ、…」


思わず手を伸ばしたが、なにもできずに下ろした。そんな私を横目に、葉瑠ちゃんが。



「……大丈夫だよ。」


私の肩に手を置いて微笑んだ。


「……なんで、そんなこと言えるの」


そういった私の声は、少し苛立ちのようなものを含んでいたかもしれない。なるべく、できる限り普通を心掛けたのだけれど、どうしたって無理があった。

だって、なにも知らないくせに。

無責任なこと、言わないでよ。



「…わたし、誰の為にもならない嘘は吐かないよ」

「…どういうこと」

「大丈夫って言ったら大丈夫なの。わたしと一緒なら負けないよ」

「……」



そう笑う葉瑠ちゃんは、相変わらず、よくわからない人だと思った。





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