バニラに溺れる
「心夏の好きなものは?」(1/14)

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「心夏の好きなものは?」


7月12日。昼休み。

食欲がなくて机に伏せていたところで、突然上から降ってきたその声。

なんとなく怠くてゆっくりと顔をあげれば、1枚のルーズリーフとシャーペンを手にした高元くん。


「……」


あぁ、なんかダメ。眠いし、怠いし。

顔をあげたにはあげたが、怠さのせいか頭が働かなくて。無言のまま、ボーッと高元くんを見ていたら。


「聞こえてる? おーい、心夏?」

「……ああ、…うん……」


聞こえてる。好きなもの。私の、好きなもの。…好きなもの?


「……」


勉強は苦手。運動も苦手。友達と話をするのも、数人を除いたら苦手。


「…心夏?」


読書は、するにはするけど先生にすすめられた本や両親に言われて強制的に読まされたものが大半で。音楽だって同じ。流行りのものを箏ちゃんのすすめできくほかは、両親に言われて聞いたクラシックくらい。

あれ? こう考えると私って好きなものもなければ嫌いなものもないのかな。そんなはずはないと思うんだけど。


「こーなーつー?」

「あ…、」

「どうした?」

「好きなもの…、だっけ?」

「そう。つぎの広報紙で、生徒会役員の軽い紹介載せなきゃで」


そうか、それも書記の仕事のひとつだったか。生徒会長の葉瑠ちゃんと副会長の有栖川くんは、かなりの仕事量のはずなのに自分の仕事が終わると高元くんの書記の仕事を手伝っていたりするけれど。仕事の遅い私は自分の会計業だけで精一杯で、書記の仕事なんてあまりわからない。



「……価値のあること、」

「は?」


高元くんの怪訝そうな声で我に返る。

ああ、どうしよう。まずい。



眉間に皺を寄せる高元くんの顔に焦点が合ってきて。いつもならば絶対にしないミスをしたことに気が付いた。






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