バニラに溺れる
「おはよっ」(1/11)

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「おはよっ」


お風呂も夕食も抜いて爆睡して、すっかり回復した私は、授業のない土曜日、元気の良い挨拶と共に生徒会室のドアを開けた。

因みに朝ちゃんとシャワーは浴びた。だから大丈夫。


「おはよう心夏」

「皆は?」

「有栖川と水無月は部活。1年は第一回学校説明会で今日は来ないよ」

「あぁ…、そっか」


高元くんと向き合って座る。テーブルの上に用意されているお菓子に手を伸ばして、どれにしようかなあと迷った末に高そうで美味しそうなクッキーに決めた。

そんな私をじい、っとどこか不満げに見つめた高元くんは。


「なに? 僕とふたりは不満?」

「え、そんなんじゃないよ」

「あっそ」


あっそ、って。訊いてきたくせに随分と淡白じゃないか。そう思うけど言わない。言ったら言い返されるから。

だから、全く別の話題を持ちかける。


「高元くんクッキー食べた?」

「うん」

「美味しいよね。なんか高そうだけど」

「値段は知らないけど水無月が昨日持ってきた」

「え、葉瑠ちゃんが?」


そう、と頷く高元くん。夏休み中に各部活が行う合宿の要項が規定を満たしているかを確認しているようだ。


「やっぱり葉瑠ちゃんお金持ちの家なのかな」

「水無月の家庭は…――」


言いかけた言葉が途中で途切れる。この時高元くんの頭に過ったのは、“求めるものや願うことは、わからなくもないよ”という葉瑠ちゃんが口にした言葉。だけど、その場にいなかった私がそれを知るはずもなく、結果、私がいま、高元くんの言葉が途切れた理由がわかるはずがない。


「どうしたの?」

「…いや、なんでもないよ。ねぇ、心夏は水無月と家族の話とかしたことある?」


葉瑠ちゃんと家族の話? どんななのって訊いて、ご両親と妹さんがいるってことだけをきいたけど。そんなに込み入った話はしていない。なぜなら私が自分の家族のことを詳しく話すことを好まないからだ。









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