バニラに溺れる
「珍しいね」(1/8)

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「珍しいね」


―――時間軸は少し遡る。

これは、私と高元くんが会話をしなくなって1週間が経った日のこと。生徒会室に最初、1年生と私しか居なかった日の放課後。


第2棟。第4多目的室。


話があるから放課後少し時間あるか、と。そう高元くんが問い掛けたのは昼休み。対して、問われた葉瑠ちゃんはいつもみたいに笑った。

そして、いま。机を挟んで向き合って座ったふたりのうち、冒頭の言葉で沈黙を破ったのは葉瑠ちゃんだ。


「きみがわたしに相談なんて」

「……相談っていうか、心夏のことなんだけど」

「うん。わかってるよ」


決まり悪そうに視線を逸らす高元くんと、いつもと変わらない葉瑠ちゃん。


「…あのさ」

「うん?」

「…喧嘩、した」

「うん」

「…うん、って。…なんかないわけ?」


理不尽なことをいっている自覚は高元くんにもあった。でも、他に言葉が見つからなかった。

そんな理不尽な言葉を向けられても、相変わらず微笑んでいる葉瑠ちゃんの心理はよくわからない。


「なにか意見を求めてるなら、もう少し詳しいことを聞かせてくれなくちゃわからないよ」

「……。」


高元くんは黙って。それから、小さく口を開く。


「勝手にすればって、言ってきた」

「んー、それは…言い捨ててきた、ってことかな」

「…まあ、そうだね」

「そっか」


開放された窓から風が吹き込み、葉瑠ちゃんの髪がふわりと揺れる。葉瑠ちゃんは窓の方に目を向けて、そして。


「きみはこのままで良いの?」

「……」

「嫌いじゃないけど好きとも断言できない。からかうと反応が面白い。可愛いとは思う。でも、近付きすぎるのはちょっと怖い。距離感がつかめない。ひとりで苦しむくらいなら頼ってほしい。でも自分が支えられるかもわからない。いつでも大丈夫って下手な嘘をつくから、だったらもう勝手にしろって思う。それでもなぜか放っておけない。だけどやっぱりめんどくさいことは嫌い。不安定なあの子がなにを求めてあんなに必死なのかがわからない。わからないから手をさしのべることもできない。そばにいて見守ることしかできない。そして、そんな自分が嫌だ」

「な、…お前、」

「って。きみ自身としては、そんなところなのかな」








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