バニラに溺れる
「ごめん、別れてほしい」(1/7)

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「ごめん、別れてほしい」



そう切り出されたとき、私に彼を引き留める術などあるはずもなく。



「…そ、か」


ここで、酷いじゃないって大泣きするか、ふざけんなって口汚く罵ることが出来たなら。



「じゃあ、お別れだね」



…もしかしたら、貴方は別れを考え直してくれましたか?




「俺、心夏が彼女で良かったよ」



だったら、なんで私以外を好きになったの。



「じゃ、いままでありがとな」



最後に優しくされるのは、ある意味では、浮気されたりして最悪な別れ方をするよりも残酷だ。



くるり、背を向けて歩き出した龍也くん。一度も振り向くことはなく、そのまま歩き去る彼。


ああ、やっぱり私のことなんか好きじゃなくなっちゃったんだね。




「龍く、…」



龍くんの前では堪えていた涙が、ぽろぽろと落ちていく。





初めての彼氏だった。
初めてデートをした。
初めてのキスもした。



“初めて”を沢山体験したし、正直、何もかもが初めてだった私にはそれら全てが新鮮で戸惑いの連続だった。


何をするでもなく、ただ一緒にいるだけで幸せだったのに。

ずっと一緒だって、何度もそう言ってくれていたのに。



初めてデートした、この場所で。

大好きだった、素敵な思い出の場所は、別れた場所として、悲しい記憶の場所へと塗り替えられた。






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