〜推理短編集〜
 推理〜独身会社員〜 (1/18)





「あっぶねぇな!気をつけろ!!」



目の前を通り過ぎる車に、思わず身を引いて頭を下げる。



やがて車は排気ガスを鳴らしながら遠くへ消えた。




俺は溜息を漏らしてまたとぼとぼと歩き出す。


自然と猫背にすぼんでいる背中には今日一日分の疲れがのしかかっていた。



資料の作成をして、上司に叱られて、営業回りに出て、上司に叱られて。



入社二年目の俺は毎日をへこへこと過ごしている。



まだピチピチの21歳だぜ?



仕事の後には同僚と飲みに行ったり、彼女とデートだってしたい。


それなのに毎日残業、残業、残業、残業。


家に着くのは12時を回っているのが当たり前になっている。


こんな時間じゃどこにも行けないよ。



あ、ちなみに俺彼女います。


ま、どうでもいいか。




そんなことを思っていると、家の前まで歩いて来ていた。



俺の家はボロボロのアパートだ。



まだ風呂とトイレがあるだけ幸いだが、隣の部屋の音は筒抜けだし、居心地が良いとも言えない。



それに最近はもっと別の理由で家に帰りたくないのだ。



カツカツと錆びた階段を上がり、自分の部屋に入った。






ただいま、我が家。




スーツを着替えることなくベッドに倒れ込む。



そして、ベッドの上にある家電に手を伸ばした。




ピッ



『不在着信10件。保存されたメッセージは10件です。』



無機質な機械の出す声が部屋に響く。



そう。


帰りたくない理由はこのいたずら電話だ。


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しおり

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