ロスト・マジック
[喪失感](1/13)
第2部、奪還編
ミンミルが崩壊し、2年の月日が経った。
帝国は領土を人間界の九割にまで広げ、もはや逆らう者などいなくなった。
生き残ったミンミル連合の者達は散り散りになり、互いの行方すらわからない状態になっていた。
人間界最北部、外界との狭間の国マガラの街にはギルド、ライト・マジックの面々が身を隠している。
帝国も手を焼く程の広さ、攻め辛さを持つマガラの街はフォースの生まれ故郷でもある。
その街の貧困層が暮らすビル街の片隅が今のライト・マジックのアジトになっているのだ。
雨が降りしきる六月。半獣の男がライト・マジックには世話になっていた。
オスカー「雨がすごいな」
ギルド、ケット・シーのSSランカー、オスカーは負傷し、ギルド存続不可能とルンが下した決断のおかげで今ライト・マジックに世話になっている。
倒壊しかけた家屋の中に入れば、外見とは見違える様な広い空間、明るい環境が待っている。
ライト・マジックはあの決戦後、魔法使いを集め、元通りの活動を再開させていたのだ。これはギルラインの意向であり、主力メンバーも納得していた。
オスカー「ガルシア、紅葉の様子は?」
ウェイトレス、デュラコングガルシアは首を横に振る。
ガルシア「いつも通りですよ。2年前のあの日から、部屋にこもって出てこない。セイラの検診は受けてるみたいですが…」
目の前で命の恩人が塵にされたその日…紅葉はそこから会話をしなくなり、自身の部屋から出ようとはしなくなった。
セイラ「分かるでしょ?ギルラインもゆっくりで良いとは言ってくれてるけどあなたも必要とされてるってこと」
紅葉の部屋で行われる検診。窓の外を向いたまま、セイラを見ない紅葉。
セイラ「ツナさんだってあなたを救った。自分の命と引き換えにね。みんなを頼むって言われたんじゃないの?」
紅葉「私は何も守れなかった。フォックスも、ツナさんも」
口を開けば同じことしか言わないのだ。
紅葉の部屋の扉が開く。そこに立っていたのは新メンバーのジェイコブ・エバンシュタインだ。
ジェイコブ「紅葉さん、また言ってるんデスか?」
ひょうきんな性格のジェイコブは毎日この時間に紅葉の部屋にやって来る。
セイラ「ジェイコブ…あなたも物好きね」
セイラが検診を中断する。
ジェイコブ「ええ。私は紅葉さんを愛していますカラ」
ジェイコブはどうやら紅葉に一目惚れしていた様だ。紅葉の手を握り、膝を床についた。
セイラ「じゃあ、後は任せるわよジェイコブ」
ジェイコブ「ええ。お任せください!私が、紅葉さんを愛の力で元気にさせてみせマス」
セイラとしてもジェイコブの存在は助かっていた。紅葉もジェイコブとだけは会話をするのだ。
セイラが部屋を出ると紅葉が口を開く。
紅葉「セイラも言っていたけど、あなたも本当物好きね。こんなミイラみたいな女が好きだなんて」
ジェイコブ「紅葉さん、怒りマスよ?」
ジェイコブは真剣な眼差しを送る。
ジェイコブ「紅葉さんはこの腐った世の中にいた私を光へ導いた天使デス。今紅葉さんが苦しんでいるナラ、私なんだってシマス」
紅葉「2年も前に死んだ男のことを引きずっているのに?」
ジェイコブ「私は、紅葉さんに幸せになって欲しいだけ。彼の代わりにはなれないことはわかっていマス」
紅葉「そっか」
ジェイコブは紅葉の手をそっと握り寄り添い続けた。
ギルライン「まじかよ」
人間界の外、魔物が棲まう外界
ギルラインは発見してしまったのだ。魔物を簡単に殺すある男の姿を。
ギルライン「久しぶりだな」
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