D - f o e


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愚意を申し上げます





20XX年 8月、私の愛する貴方はいなくなりました。


私の腕の中でだんだんと体温を失っていく貴方に「愛してる、愛してる」と涙を流しながら伝え続けることしか出来なかった。
彼を刺した目の前の女は「何で、どうして」とぶつぶつと呟きながら突っ立っていた。

そんな中で彼は薄く笑って「胡桃、」と私の名前を呼んで涙を流しながら彼を抱く私の顔に手を伸ばす。その手を掴んで私の頬に当てるとぬめりとした感覚があり、血が付いたんだと理解する。




彼は泣きそうな顔で笑うと、


「胡桃、ごめんな。
俺やっぱり胡桃が好きだ。
浮気してごめんな?…ごめん。
好きなんだ、愛してる。」


そう言って涙を流し「ごめん、ごめん」と呟いた。
私が精一杯の笑顔で微笑み「知ってるよ」と言えば安心したように「そっか、」と彼は手の力を抜く。


そのせいでずり落ちそうになる手を掴んで、ぎゅ…と握ると彼は唐突に口を開いた。


「なぁ、俺死ぬかな」

「…っ……」


息が、止まるかと思った。
彼の腹部から出る血は止まらなくて、急いで呼んだ救急車もこない。それでも助かると自分に言い聞かせて保っていたものがプツンと切れて『死』への恐怖が襲ってきた。



「ど…して…?」


絞り出すようにして出した声は掠れていて涙が再び落ちる。



「泣くなよ。」


そう言って彼は小さく笑い、何かを呟く。
その声が聞こえなくて彼に顔を近付けると、グイと頭を後ろから押されて唇と唇が重なる。

やっと離れた時には彼の息は絶え絶えで、それでも彼は笑っていた。



「なぁ、胡桃。」


呼ばれて彼を見つめるが視界がぼやけて彼の顔が見えない。
必死で目を擦る私に「泣き虫だなぁ…」と言っている彼は笑っているようだった。



「もう、これで悔いはないよ。」


そう言って彼が目を閉じたかと思うと彼の手から力がなくなる。

と、同時に救急隊員が部屋に入ってきて彼を救急車に運び、私は救急隊員のうちの1人に連れられて救急車に乗り込んだ。






結局彼は助からず私の証言で彼の浮気相手の女は捕まった。


生きている間は言えなかったこと、今言うね。

浮気をした貴方に、そんな貴方を愛し続けた私に





「愚意を申し上げます。」







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