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日脚が早まるころ







そろそろ秋が終わる。

この季節が一番嫌いだ。服が定まらないから。


「うー……さみ。」


今日に限って薄着で来てしまった俺に冷たい風が襲いかかる。

さっさと帰ろう、と帰る足を速め、ふと前を見ると公園が視界に入る。


その公園のベンチに座る女の子。


気付けばそちらに足が向かっていて彼女の前に立っていた。

すると彼女は影に気付いたのか顔をあげ、

「見えるんですか…?」

と、驚いたような顔でおずおずと聞いてくる。
何を意味のわからないことを言っているんだと首を傾げながら


「ん?…あぁ。」


と言えば顔をパアッと輝かせ飛び付いてきて

「ほ、ほんとですか?!ぼくが…見えるんですか?!」

と再び聞いてくる。


「だから、何言ってんだよ。…てかお前男?」

ぶっきらぼうに答え、「ぼく」という言葉に引っ掛かったので訊ねてみると「そっかぁ…」と嬉しそうに何度も呟く。
その姿はどう見ても女で、いくら草食系男子でもこんなことはしないだろうと思うが、やはり「ぼく」に引っかかる。


「なぁ、」

「あ、何でしょう?」


「あー…お前、男?」


声を掛ければすぐに返事が返ってきて少々面食らった俺は少し吃りながらも訊ねる。


「…?違いますよ?」

キョトンとした顔で返事をする彼女にやや安堵する。
もし男なら俺にその気質があるということになる。不覚にもドキッとしてしまったのだから。


「見えるとか見えないとか何なんだ」

「信じられないでしょうけど僕たちは秋の妖精で、人が疎らになる今日、この日だけ人間界に訪れることが許されているんです。
人が多いと人の"気"が濃くて実体化しちゃうんでみんなに見られちゃうんですよね」

ニコリと微笑みながらそう言い、彼女はさらに続ける

「でも、稀にいるんです。
ぼくたちが見える人が。その人たちは心が綺麗なんだ、っておばあちゃんに教えてもらいました。」

そう言ってふわりと笑う彼女に少し反論してみる。


「こんな成りでも?」

「え、あ、見た目とかそんなのは関係ないらしいです。ちょっとひねくれてるようでも根本的がところは綺麗だったら見えるみたいですよ」


俺の反論にそう答えてニコリと微笑みかけてくる彼女は何故か懐かしく思えた。







「あ、名前は。」

「へ…?あ、ランです。」


そういえば名前を聞いてなかったと思い出し彼女に訊ねてみると再びふわりと笑いながらそう言う彼女はやっぱり懐かしかった。


「泣かないでください。」


そう言って俺の頬を撫でる彼女。俺は泣いていたようで頬に触れる彼女の手で昔 誰かと約束をしたことを思い出す。



「…らん……?」


「はい、何でしょう?」


俺をキョトンと見つめながら訊ねてくる彼女は昔一緒に遊んだあの時の"らん"だった。


「なぁ、お前"らん"だろ?」

「へ…?りー、くん?」


りーくん、確か彼女はそう呼んでたな…

「うん」


俺が軽く頷けば彼女はぎゅううと抱きつかれる。そして


「よかった…
やっと、やっと…会えた…」

そう繰り返す彼女に


「約束、したじゃん」

俺がそう言いながら彼女の頭を撫でると彼女はさらにきつく抱きついてくる。


「あの時ランが言ったんじゃん。
『この時期…日脚が早まるころ、またこの場所で』って
俺あのあと引っ越しちゃって来れなかったんだ」


…ごめん。 と謝れば俺に顔を押し付けたまま必死で首を振るラン。

泣きじゃくるランをベンチに座らせ、落ち着いた頃に

「なぁ、また会えねぇの?」

と聞けば、目を少し伏せて

「ううん、会えるよ。
ぼく、追放されちゃったから。」

言い終わると同時に顔をあげ、照れたように悲しそうに笑うランの頭を小突いてやる。


「俺が一緒にいてやるからそんな顔すんな。」


そう言ったはいいが恥ずかしくなりそっぽを向く。


「ありがとう」

そっぽを向いた俺にお礼を言うランを横目でチラリと見れば今まで見たことのないくらいランは笑っていた。


あれほど吹いていた風は少し収まっていた。







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