1 / 1 寂しいだなんて 言えるはずがない …がちゃり 「……。」 また私は寝たフリをして彼が出ていくのを見送る。 どこ行くの? とか どうしたの? とか もうとっくの昔に聞く気は失せてしまった。 「…はぁ……。」 ため息を吐くのは好きじゃない。幸せが逃げるって言うでしょ? でも、そんなこと気にならないくらい…いや、気にすることが出来ないくらい彼に呆れきっていた。 ずるずると布団から這い出て重い体を起こし、キッチンまで歩いていく。 眠気覚ましに水を飲み、さえた頭で考えてみる。 いつからこんなことになったんだろう。 あぁ、そうだ。思い出した。 彼が転職してからだ。 私と彼が一緒に棲み始めた頃彼は転職した。 彼が言うには「家賃が高いから。」だそうだ。 あの頃、私は幸せで彼の言葉を疑おうともしなかった。 今思えば、ただ利用されてるだけだ。 帰ったときに人がいないと寂しいだとか 鍵をわざわざ開けなくても開いてるとか そんな仕様もない理由だったのかもしれない。 もしかすれば本当に愛してくれていたのかもしれない。 …どっちにせよ今、彼は私を愛していない。 今日も浮気相手のところに行ったのだから。 そうやって考えているとマイナスにしか考えられなくなってきて、「…ふぅ。」と大きく息を吐きもう一度寝ることにした。 私が次目覚めたのは夕方頃だった。 そうして暫くすると玄関のドアの開く音がした、と同時に「ただいまー」と間延びした挨拶が聞こえる。 そのまま部屋に入ってきて驚いた様子で私と部屋を見比べ 「なんかあった?」 と心配そうに訊ねる彼。 「……。」 そんな彼を虚ろな目で見詰め黙っていれば手を握られ 「なぁ、どうしたんだよ。」 と、さっき以上に必死な声で訊ねられる。 圭が居なくて寂しかったんだよ。 そう言えば一緒にいてくれるの? 詰め寄れば離れるんでしょ? なら、黙っているしかない。 私はニコリと笑い、 「何でもないよ、疲れてたの。」 そう言って部屋の片付けを始めた。 前n[*]|[#]次n ⇒しおり挿入 |