10th position
02『どこの御曹子だよ。』(8/13)
「…おい、何して…、」
「あっ、ゆっきー、ダメ入ってきたらーーっ!」
キッチンに一歩入った途端、ビチャッと水音がする……。
目の前には、雑巾を持って跪いている渚の姿。
恐る恐る視線を床へ落とすと…、
「ーーおまっ、これ、どうしたんだっ!」
水と泡だらけになったキッチンの床。
ビルトインの食洗機の下や扉部分の隙間から、噴き出している水と泡。
しかも、食洗機はまだ動いてるじゃないか!
「あぁー、ゆっきーごめんなさいっ」
「アホか!謝ってる暇あったら、電源止めろ!」
慌てて電源は止めたものの、次々と溢れてくる泡に呆然としてしまう。
「お前…何を入れたわけ?」
「え?何って…そこにある洗剤入れたんやけど…なんでこんなになったんやろ…入れ過ぎたんかなぁ。」
渚が指差した洗剤は、食洗機用ではなくて、普通の食器用洗剤。
あぁ…頭痛がする。
「あのな、これは食洗機用じゃないだろ?よく見て使えよ。それくらい分かるだろ?」
「え?食洗機用?そんなのあるんや。知らんかったー。ゆっきー物知りやなぁ。」
神様、今すぐこいつを絞め殺していいですか。
「なんでお前、こんな事してんの。兄貴がメキシコに行ってる間、食器なんか洗わなかっただろ?」
余計な事しやがって、と続けてから、チッと舌打ちをすると、渚が泣きそうな声で答える。
「だって…、ボクが汚した食器とか全部ゆっきーが片付けてくれたやろ?やから、ボクもちゃんとせなあかんと思って…」
へえ、ちょっとは反省して、自分でやろうとしたってわけか。
「自分でやろうとしたのはいいけど、俺の仕事増やしてどうすんだよ、まったく。」
言いながら、古新聞を取り出してきて、取り敢えず床に広げて水分を取っていく。
「これじゃ、全然足りないな。洗面所から雑巾もっと持って来ないと…。」
キッチンに渚を残して、階段を降りて行くと、洗面所の方から、またピチャピチャと水の音がする。
(ーーなんで?まさかキッチンのが漏れてるとか?)
なんだか分からないけど、嫌な予感しかしない。
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『出逢えた幸せ』SS集(2015/02/14UP)
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