10th position

02『どこの御曹子だよ。』(6/13)





「……な、なんだよ。」
直の真剣な表情に、たじろいでしまう。


ほんの数カ月前の事じゃないか、直がフラフラと適当に女と遊んでいたのは。


そんな短期間で、人って変われるもんなんだろうか?


「俺、透さんと逢えなくなった時、すげえ辛くて、もう二度と逢えないと思うとすげえ苦しくて…」

でも、こいつが、今、ふざけてなんかないって事だけは、俺にだって分かる。

「ーーって、ちゃんと訊いてますか?!桜川先輩?」

「ーーっんだよ!ちゃんと訊いてるだろが!」

早く続き言えよと、促すと、直は顔を真っ赤にしながら

「先輩…嬉しかったことや、悲しかったこと、今日あった出来事を、一日の終わりに、誰に一番最初に話したいですか?」と、わけの分からない事を訊いてくる。

「あ?なんだよそれ。」


「俺は、透さんに話したいんですよ。今日あったこと全部、透さんに訊いてもらいたい。明日も明後日も…ずっと。」


まったく…訊いてるこっちが恥ずかしくなる…。

だけど…

「俺、そうやって、ずっと透さんと一緒にいたいと思ったんですよ。だから…、もうフラフラなんてしないって、胸張って言えます。」


そう言って目を細めて遠くを見やる、直の横顔が、暖かい陽だまりの中で、きらきらと輝いて見えて…

不覚にも、『羨ましい…』なんて、ちょっとだけ思ってしまった。


「好きな人とずっと一緒に過ごせることって、凄いことだと思いませんか?」

ーー俺は
『羨ましい』なんて…


「ああ、ああ、そうだな!分かったよ。もう惚気なんて沢山だ。」

ちらっと過ってしまった考えを誤魔化すように、俺はそう言い捨てて立ち上がった。


「…先輩?」
「…帰る。」

急に立ち上がった俺を、驚いた顔で見上げる直を無視して、歩き出す。


(ーー何が…ホントに好きな人だ。今まで散々遊んでおいて、そんなの信じられるかよ。だいたい、お前のせいで兄貴は…)


スタスタと歩きながら、そこまで考えて、ふと我にかえって気付く。

(…俺、なんでこんなにイライラしてんだ?)


「ーー桜川先輩、」

呼ばれて振り返ると、直はベンチから立ち上がって、満面の笑みを俺に向けている。


そして、大声で言った。


「先輩も、自分の気持ちを素直に伝えたらいいんですよ!みっきーの事を好きだって!」


「ーーばっ…」

直の大声に、周りから痛い程の視線を感じた。




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『出逢えた幸せ』SS集(2015/02/14UP)


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