今世紀最大のキスを。


 


彼女から電話が来たのは
ちょうど1時間前だ。

久しぶりに話す彼女の声は
相変わらずだった。
きっとあいつは何一つ変わらない生活を
送ってるんだろう、と思った。
俺はそれが嬉しくて
ほんの少しさみしかった。

「先生」

振り向くと彼女の笑みが、あった。

おう、
とか
久しぶりだな
なんて、用意した台詞はあったのに
喉まで来てつかえた。

「そんな驚いた顔でみないでよ」

笑いながら彼女は
俺の隣に座った。
手に持っていたビニール袋から
缶ビールを2つ取り出して
はい、なんて俺に1つを渡す。

すぐそばまで来るとよく分かる彼女の
げっそりとした体から
昔の彼女の面影は、
もうどこにもないと思った。

でも、ぐびぐびと喉でいい音をさせながら
ビールを飲む彼女は
昔のままでもあった。

「また過激なダイエットでもしてんの?」

なるべく平静を装って言ったのに
彼女には気持ちを見透かされたような気がした。
ビールでむせたのか、
彼女は急に息苦しそうに咳込んだ。
背中をさすってやると
大丈夫、という風に左手を俺の顔の前にあげた。

「はは、やっぱりやりすぎかな〜」

彼女はそう言ったけど
やっぱりダイエットで痩せた体じゃない。
咳込んでしまっただけなのに
この広い公園を5周走って来たのかってくらい
息を切らしていた。



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