花束
クラウン(1/14)
クラウン。
日本で言う、ピエロのこと。
また、道化師とも言われる。
派手な衣装と化粧をし、サーカスなどに登場するコメディアンである。
そんなピエロに扮し、道端でジャグリングをする彼女は顔は笑っていても内心不安でいっぱいだった。
先日急に言い渡されたリストラ。
頭の中が整理できないまま会社から追い出され、一瞬で無職になった。
親にもまだ言えず、必死にバイトで食いつなぐ毎日。
ピエロなんて情けないバイト、したくなかった。
何にも楽しくないのにどうしてこんなに笑っているのだろう、と心と体がバラバラになった感じがする。
目の前の子供たちは目をキラキラと輝かせて私を見ているというのに、どうして私の心はこんなにも荒んでいるのだろう。
出来ることなら彼らの年齢から人生をやり直したかった。
そんなことは無理なのは分かっているのだが。
「…あっ。」
本来ならば黙っていなければいけない契約なのについ声を漏らしてしまった。
それもそのはず。
彼女が待ち望んでいた人が現れたのだから。
毎日同じ時間にここを通る背の高い男性。
ピシッとした背筋に柔らかく微笑む口元。
そして右目の下と唇の左下にある色っぽいホクロ。
名前はなんなのか、年齢はどれくらいなのか、何にも分からないけれど、そのあまりの凛とした様子に見とれてから数日が経っていた。
話しかける勇気も要件も無くて、毎朝数分間ここで眺めるだけしか出来ない。
大人びているし年上なんだろう。
ぽーっと見とれていると子供に左足を思いっきり蹴られた。
「何してんだよ、ピエロー!早くしろよー!」
子供に急かされ、バイト中だったことを思い出す。
彼女は慌てて手を動かし、ジャグリングを再開した。
だが頭にはあの男性の顔が浮かんでおり、あまり集中できなくて失敗してばかりだった。
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