花束
朽ちた花(1/10)


「律。」




真っ暗な空間でオレの名前を呼ぶ声がする。

潰れてよく見えない目を開くと暗い空間に微かに光が入った。

そこで気づく。

ここは真っ暗な空間ではない。

ただ、オレが目を瞑っていただけなのだと。




「僕はお前が嫌いだよ。」




存在を否定された時、人は最も傷つく。

どうしてこの場に居るのだろう。

どうしてオレは生きているのだろう。

生まれて来なければ良かった。

何度もしてきた後悔。

何度も死のうとしたけれどこの悪魔はそれすらも許してくれない。

死ぬか生きるかの微妙な所ばかり攻め、オレからじわりじわりと希望を奪っていく。

そんな中、オレは何を目指して生きればいいのだろう。

誰かオレに希望を与えてくれ。





昔からオレが描く家族の絵には父しかいなかった。

オレが生まれてすぐに母は死んだと父は語っていた。

そしてオレの描く絵はいつも背景が真っ黒で、父は楽しそうに微笑み、オレは真顔だった。

いつも先生に心配されて、その絵の意味を聞かれたが、オレは「そのままの意味です」と淡々と答えていた。

その絵を父に見せると殴られ、眠ることなどできなかった。

物心付いた頃から暴力を奮われていたオレには普通の家庭が分からない。

楽しそうに家族と出かける気持ちも、手を繋ぐことも、知らない。

オレは昔から虐められ、それをいちいち相手にしていなかったら無視されるようになった。

父だけでなく他の人間もオレの存在を殺すのかと辛くて、何処にも居場所なんてなかった。

誰かにオレのことを認めて欲しくて、あの黒い場所から救い出して欲しくて、何度も家出をした。

今考えると父はわざとオレを家出させていたのだと思う。

だってあんなに完璧な人間が鍵を締め忘れるなんて典型的なミスはしないだろうから。

家を出たって無一文では暮らす場所も食い物も何も無いから何にもできなくて、道行く女を引っ掛けて一夜を過ごした。

もちろんただで泊めてくれるわけが無いから抱いた。

抱いた女の数ならば秦野光輝にも引けを取らないと思う。

そのくらいオレもなかなかのクズだった。

でも一夜を過ごすだけですぐにあの家に連れ戻され、その日はいつにも増して痛めつけられた。




中学に上がって、オレは毎日無表情でいた。

笑い方なんて忘れて、人とどう接すればいいのか分からなくて、馴れ合いなんて求めていなかった。

当時は顔も殴られていたため顔にも絆創膏を貼っていた。

そのためにヤンキーだ何だと言われ、表情を崩さないためにガンを付けていると絡まれることも多かった。

そのせいで喧嘩を売られ、オレもそれに歯向かった。

それが父の耳に入り、騒ぎを起こすなと殴られた。

騒ぎの種はこの人なのに。

だがオレはこの人には逆らえない。

その日から喧嘩はやめた。





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