花束
波乱と混乱(1/18)


光輝との一件が片付いた後、光輝から宅配便が届いた。

それは小さなダンボール箱で、光輝から何の連絡も無かっただけに恐怖を感じた。

皐月くんは勇敢にもベリベリとガムテープを剥ぎ取り、そのダンボールを開けた。

緩衝材や、小さなダンボールで固定された中には薄い電子機器が入っていた。

不思議そうに固まる皐月くんを他所に私はヒョイッとそれを持ち上げた。

それは最新型のスマートフォンだった。




は?」




思わず出た声はマヌケ過ぎた。

だってえ?

何でスマートフォンが入ってるの?

というか何で光輝が?

ダンボールには手紙も一緒に包まれており、それを開くと懐かしい光輝の文字が並んでいた。




『ええ年の男の子が携帯すら持ってへんのはさすがに可哀想なので送ります。
花奈の安月給やったら買えへんやろうし、この間はボクのせいで君らの関係グチャグチャにしてもうたからそれのお詫びです。
皐月くん、今度またゆっくり話そうな。
秦野光輝』




文面から察するにこれは光輝から皐月くんに宛てたお詫びの品らしい。

多分お詫びというのは口実で、ただ単に皐月くんと連絡を取りたかったから贈っただけだろう。

私はスマートフォンを持ち上げると皐月くんに差し出した。




「これ、光輝から皐月くんにって。
手紙も入ってたよ。」




皐月くんはスマホは受け取らず、手紙だけ手に取ると黙読した。

それからやっとスマホを手に取る。

ボタンを押しただけですぐに開き、初期アプリがズラズラと並んだホーム画面が映し出された。

皐月くんはスマホを扱うのは初めてなのか、恐る恐るといった感じで画面に触れていく。

だがその内ヘタな所を触るのが怖くなったのか画面をスライドするだけに留めた。

私はそれを笑って眺めていたがあまりにも初期設定が進まないために彼に手を差し伸べる。




「それ貸して。
初期設定してあげる。」




皐月くんはすぐに渡してくれた。

とりあえず主要アプリだけ残して他はアンインストールする。

それから某人気SNSアプリを入れてアカウントを作った。

すぐに私のQRコードを読み取り連絡先を交換する。

これでいつでも連絡が取り合える。

それから電話番号を追加するために電話帳を開く。

電話帳は当然カラッポで、少し驚いた。

光輝の事だから自分の連絡先を入れているかと思ったのに。

もしかして




「皐月くんさ、光輝から電話番号とか受け取った?」


「電話番号?あぁ、貰ったよ、アドレスも一緒に。
どこにやったか覚えてないけど
多分リュックに入れたと思う。」




乱雑な扱いをしている辺りがとても皐月くんらしいが光輝に少し同情した。

そんな雑な扱いされたことなんて無いんだろうな、あいつ。

それにしても、もう番号を渡したから勝手に登録しなかったってことかな。

連絡してきたいならそれを使え、って。

光輝は勝手に皐月くんの番号を登録してそうだけど。

それからいくつかの初期設定をこなし、携帯にロックもかけた。

皐月くんは「花奈さんの指紋も認証させたい」と言っていたけれど個人情報の詰まった機器に私の指紋まで認証してしまうのは不用心極まりないのでさすがに断った。

そこはちゃんと線引きしておかないと訳が分からなくなってしまうから。




「よし、これで終わり。
はい、皐月くん専用の携帯電話だよ。」




皐月くんは黙って受け取るとボタンに指を押し当てた。

すぐに開き、ホーム画面へと飛ぶ。

それに皐月くんは驚いて目を丸くした。




「ふふ、指紋認証だからね。
パスワードも設定したいなら言ってね、やり方教えてあげるから。
そっちも設定しておいた方が便利いいと思うし。」


「うん、ありがとう。
これがアイツから貰った物って考えると気分悪いけど、でもこれで花奈さんといつでも連絡取れるって考えると嬉しい。」




皐月くんは顔を綻ばせ、心底嬉しそうに微笑んだ。

それが見れただけで私の胸はいっぱいになる。

買ってくれたのは光輝で、私は何にもしてないけれどそれでも嬉しいものは嬉しいのだ。




「お返しとかした方がいいのかな。
これって高価な物なんでしょ?貰いっぱなしはさすがに。」




皐月くんは不意に不安そうな顔になる。

彼の持っているお金は微々たる物だし、所持品もマトモな物は無い。

スマートフォンに見合うお返し品はあげられそうにもなかった。

彼はそれを懸念しているのか急に落ち着きが無くなる。

私はそれを笑った。




「そういうの、いいと思うよ。
手紙にはお詫びって書いてたし、光輝は皐月くんにプレゼントしたつもりなんじゃないかな?
プレゼントって見返りを求めてするものじゃないでしょ?」


「プレゼント?って、何で?
プレゼントって何か特別な日に贈る物でしょ?
今日は何か特別な日なの?」


「うーん、そうだなぁ。」




皐月くんに説明するのは少し難しいかもしれない。

何にもない日にもプレゼントを贈る時はある。

それは相手が贈りたい、と思って贈ってくれた時。

そして光輝の場合今回がそれに当たるだろう。

けれどそれでは皐月くんは納得してくれそうに無かった。

特別な日、か。

あぁそうだ。




「この前皐月くんの誕生日だったんでしょ?
そのプレゼントなんじゃないかな。」


「誕生日。」




皐月くんは小さく呟いてからスマホを見下ろした。

どうやらあまりピンと来ていないらしいが、彼から質問されることはもう無かった。




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