風船のなか
[授業の終わりを告げるチャイムが鳴った](1/33)
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


何度も聞いたそれは、聞き飽きたとかそんな次元ではなく、

もはや音として捉えられないところまできた。

チャイムが鳴り止まないうちに、今度は椅子を引くときに発せられる、

ギギギという低い音があちこちで聞こえてきた。
 頭を下げただけの節約モードの礼をして、椅子に座る。

返された数学のテストは、点数が見えないように半分に折った上でファイルにしまった。
 誰も俺のファイルなどあさらないだろうが無意識にそうしている。
 拓が俺の席にやってきた。

野球部でもないのに丸めた頭と、それと最強の相性の焼けた肌をしている。
教室は話し声が充満しているのにも関わらず、こいつの足音は俺の耳に届いた。
「誠は何点だった?今回の数学難しかったよな。過去最悪の点数だよ」
 聞いてもいないのに、拓はどうでもいい情報をペラペラと話す。
そのスピードがいつもより一段と速かったから、

対抗するかのように俺はあえてゆっくりと話した。
「悪かったから言いたくないな」



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