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[六章](1/28)
 係長は無言で立ち上がると1号室に向かい、私に手招きをする。二人きりで話そうということか。私は小走りで係長の後を追い、1号室に入った。

「……」

 係長はパイプ椅子に腰をかけると、また無言のまま眉間に皺を寄せ、髪を掻きむしり始める。恐らく、私にどう伝えるべきか、必死で考えてくれているのだろう。

 係長なりの気遣いからなのだろうが、普段見慣れない様子なだけに、こちらがどきまぎしてしまうわけで。

「係長、あの……」

「あー! 分かってる。待て、ちょっと待てな」

 係長は私の言葉を断ち切ると、再び髪を掻きむしって、あー! だの、うー! だの呻き出した。

「あ、あの係長。私、大丈夫ですから。前みたいに倒れたりしないですから、気を遣わないで本当のことを話して下さい。それにもし、過呼吸が起きたとしても、その時の用でちゃんと紙袋も持ってますから」

 頭を抱え込んでいる係長に紙袋をひらひらさせて見せた。

「……お前のせいだってよ……」

「え?」

 係長は諦めたように、ゆっくりと口を動かし始める。

「今回の件はお前のせいだ。って言ったんだよ、あのクソ野郎」

 係長が吐き捨てるように続けた。想像していたものとまるで違っていた言葉。どういう意味なのか、理解ができない。

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