調教師の夜V
[閉ざされた記憶](1/22)

“一度だけチャンスをやるよ”


伊吹さんはあぁ言ったけど、その代わりに、伊吹さんの愛撫に応えなければいけないなんて……。


やっぱり、無理だよ……。


気持ちがついていかない……。


でも、それでも、海里さんには会いたい。


何もしないでここにいるよりも、何かをしてでも、もう一度海里さんに会った方がいい。



何かを叶えるために、それが必要なら、誰だってそうするよね?


例え…それが間違っていたとしても……後悔はしない……。




あたしは、海里さんに会ってちゃんと話したいだけ。


だから……あたし……チャンスがあるなら……。




それを逃したくない…。






伊吹さんに言われてから数日。



約束通り、伊吹さんは手を出してこなかった。



それだけ、本気という事……かな。



だからー………。



あたしも、覚悟を決める。







『伊吹さん…あたしを海里さんに会わせて…』


バルコニーで、タバコをふかしていた伊吹さんに、あたしは窓際から覗いて言った。


『いいんだな?』


あたしは、コクンと頷く。


『今夜…だ…』


『……………』


『心配するな。約束は守る』


伊吹さんは、あたしの頬に触れると、おでこに優しくキスをして、部屋の中に入った。




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