駆け込み探偵
[迫るタイムリミット](1/6)
慌てた俺は、ドアを強くたたいて叩いて室石さんの名前を呼んだ。

「室石さん!ここを開けてください!室石さん!」

最初は返事がなかったものの、めげずにドアを叩いているとドアの向こうから小さな声がしているのに気付いた。


「すみません…すみません…」

そう何度も自分に言い聞かせるように呟いている声を聴いて、俺は振り上げていた手をそっと降ろした。
叩く音が止んだことに気づいたのか、ドアの向こうから今度は大きくはっきりと声がした。

「14時にはここに戻ってきますから、ここでじっとしていて下さい。
ここは13時から15時の間は人が通ることは殆どないので、声を上げても無駄だと思います。
14時には出してあげますから。」

ドアから聞こえるその声は、先程よりも強く芯をもった声だった。

「どうしてこんな事を…」

そう問いかけると、暫し間を置いた後ゆっくりと語りだした。

「もうすぐ定年なんです…最後まで何事もなく仕事を全うして退職したいんです」

そう言い終えると、コツンコツンと室石さんが歩く音がした。

「ちょっと待ってください!室石さん!室石さん!!」

しかし、その足音は一度も止まることなく遠ざかっていった。

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