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 誤謬の話

 真っ白い清潔な部屋であなたは過ごしている。いつから、なのかはあなたにはわからない。ただ、定期的に面会をする人物――あなたは彼を「先生」と呼んでいる――が会うたびに◯回め、と数えてくれるのでそれが日数の目安になってはいるけれど、この白いだけの部屋にはおよそ生活必需品と呼べるものが少ない。カレンダーはもちろんないし、鏡だってない。あるのは白いベッドと白いチェスト、冷たいパイプ椅子。

 そう、鏡。あなたは鏡がほしい。毎朝与えられるタオルで顔を拭きはできても身だしなみのチェックはできない。本音を言えば自分の顔が見たい。あなたは近頃やけに自分の姿を確認したくてたまらなかった。
 仕方がないので手探りであなた自身の容姿を確かめる。
 まず頬に手をあてた。顔全体を撫でていく。すべすべするところもあれば、ざらっとした感触を覚えるところもある。傷などはない。
 次に頭。すでに前髪は視界にかかるほど伸びている。髪の長さはおかっぱより短いくらい。ひとつに結ぶには少し足りない。毛の色はやや茶色。

 目線を下げると、白い衣服を着たあなたの身体が見える。体格がいいのかはわからない。しかし太ってはいない。身長はおそらく「先生」と同じほど。手は骨ばっていて、指先は荒れていた。
 その程度の情報しかあなたは得られない。あなたはあなたの顔が、わからない。
 ノックの音であなたは振り向く。

「――おはよう。今日は……十二回めだね」


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