リトルバード
*[雫](1/1)
筆がスッとキャンパスから離れる。キャンパスの中で少女は歌う。


──メロディー……。


音を無くしたこの世界で、歌えた。ずっと苦しかった。歌はわたしの中で変わらずあった、ただ出口のが見つからずくすぶっていた。その思いがやっと出口を見つけた。

胸の奥から込み上げてくるもの。
心が、震えた。
声を無くしたわたしが、また、達成感を味わえたことにが不思議で嬉しかった。










「小鳥」









気がついたらわたしのとなりには小鳩がいた。

夢?

あぁ、きっと、疲れてそのまま眠ってしまったのだ。
小鳩はわたしに手を差し出し笑う。

「小鳥、行きましょう」

夢の世界は、雨が降っていた。
歩く度に足元の濡れた草が倒れ青臭い匂いと共にキュッキュッと音がなる。

雨の音がする。小鳩の息づかいが聞こえる。わたしの心臓が脈打つ音も──

夢の中では、音は今まで通り溢れてて、世界はこんなにもキレイで、愛おしい。
大方の夢がそうであるように、夢の舞台は突然、雨の降る草原から雪の積もった、わたしの住む町に代わった。
空からは白い雪がホロホロと舞い落ちる。

その町の中央──わたしもよく利用する駅の公園──で小鳩はわたしの手を解きそのまま数歩前に進む。それからこちらを振り向きにっこりと笑う。
そして、小鳩はそれは優雅にお辞儀をした。そして、空に片方の手を伸ばしもう一方の手は自らの胸へ。背筋を伸ばし、すぅっと息を吸いんだ。
その唇からこぼれるのは、歌声。初めは囁くように次第に伸びやかになる歌声。駅前のビル群に反響し、歌は何重にも重なり、上へ上へと昇ってゆく。

空いっぱいに広がる歌声はいつしかその厚い雲に切れ間を作った。
雪は雨となり、雨は勢いを失い、やがて止んだ。
代わりに、太陽の光が町を照らす。暖かな日差しは冬の終わりをつげ、雪は見る間に溶けていった。
頭上の桜の蕾は膨らみ淡い桜色の花弁が覗く。花壇に植えられた花々はぐんっと伸びをし柔らかなパステルグリーンの若葉がはにかむ。

その様子をわたしはただ目を見開いて見入った。小鳩はわたしの手をそっと握った。
気づけば小鳩は歌を止め、隣に来ていた。

「ありがとう」

小鳩は幸せそうにわたしに笑いかける。

「ありがとう、小鳥」

もう一度繰り返し、小鳩はわたしを抱きしめた。

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