飢愛の彼




彼は愛に、飢えている (11/11)





割りと小型なその鋭利なナイフは
刃の部分がギザギザになっていて
よく斬れそうで、思わず身がすくむ。

そんな私を横目に千影は何か吹っ切れたような顔をしながら、私の服を捲った。

外の空気に肌が晒される
感覚がして顔をしかめる。

「聖を殺して、俺も後から逝くよ」

そう言いながら彼は慣れた手つきで
私の心臓部分にピトリとナイフを当て、
上目遣いにこちらを睨んだ。

「いっ…、やだ…こわいっお願い!」

「大丈夫、怖くない。
寂しがることはないんだよ」

眉毛を垂らして言う彼の口調は
さも哀しそうだが緩んだ口許を隠しきれていない。今の状況を待ってましたと言わんばかりの笑みだ。

「僕もすぐにイくから。待っててね」
「っいやだ…!!っあああ!」

冷たいナイフの感触に涙が滲み出る。
もう、どうしてこんなことになっているのか私には全く理解できない。頭が混乱して何も言えない見えない怖い。

「聖……」

「ぁ……ぁ、ゃ…、」

「愛してる」

ああ、さよなら私。

グサリと何かが体を貫くような感覚がして一気に神経が集中する。

私の、なにがいけなかった――…?

そんなことは分からなかったが
一つだけ、まさに痛感した。


やはり彼は愛に、飢えていた――。

どこかの頭の隅でそう考えながら
私は永遠に意識を飛ばしたのであった




―― THE END






- 11 -

前n[*][#]次n

⇒shiori

/22 n


⇒作品?レビュー
⇒モバスペ?Book?

[編集]

←back